口と内臓

足が咀嚼の土台となる?

健康な人の噛む力は、平均で、男性は60kg、女性は40kgほどといわれています。噛み合わせに問題があったり、歯周病などの疾患があると、噛む力は10kg程度にまで落ちてしまうこともあります。人間が一生のうちに摂取する食物の総量は、平均で約70tにもなるため、噛む力が弱い人は、自分の身体に大きな負担をかけて生きているということにもなります。

人の咀嚼は複雑?

噛むときは、顎関節、咀嚼筋、舌などが相互に関わり合って正しく動くことが大切です。

人間の頭蓋骨は複数の骨で構成され、下顎骨と舌骨を除いた骨がパズルのように組み合わさっており、それぞれが微妙に動くようになっています。

上顎骨という上あごの骨は、歯並びや噛み合わせに最も大きく影響する骨です。

人間は雑食性ですので、ものを噛み切るための切歯、犬歯、すりつぶすための小臼歯、大臼歯があり、上下左右に顎が動きます。

食べ物を細かくし、唾液とかき混ぜるためには、舌や頬筋などの筋肉が複雑に、そして柔軟に動く必要があります。

 

誤嚥の仕組み ~ 舌の重要性?

実は人間だけが空気と食べ物の通り道が一緒です。空気と食べ物どちらも咽頭を通り、鼻から入った空気と口から入った食べ物の流れは咽頭で合流します。

嚥下する時は、喉頭蓋を塞ぐことで食道に通し、呼吸時には喉頭蓋を開けることで空気を通します。この動きを少し間違えると、誤嚥になってしまいます。飲食物が気管支に入ってむせたりするのは、喉頭蓋を開けた状態でのみこむものが気管支に流れてしまうことで起こります。また、舌が良く動き、舌のスペースが確保されていなければ嚥下がうまくいかないことにもつながりやすくなります。

頬筋の重要性とは?

頬筋は、咀嚼筋ではありませんが、舌と協調して咀嚼を促す大切な筋肉です。

噛み合わせに不調があると、その影響が頬筋にそのまま出て、過緊張になり、口が開きにくくなり、直接つながる咽頭の筋肉のバランスが崩れ、食べ物が飲み込みにくくなります。治療の過程で必要に応じて「咬合力測定用プレスケール」を使用すると、興味深いことがわかります。

足の重心がずれているものですが、治療の過程で重心が中心に合ってくると、それだけで咬合面積(噛んだ時に当たる上下の歯の面積の総和)も咬合力も1.5倍~2倍近く強まります。

人類の祖先から考える?

人の最も古い祖先は、口と腸しか持たない腔腸動物でした。現在生きている生物ではイソギンチャクなどが同様の生体構造です。口は、外界に開いた腸管の入り口で内臓の最先端です。身体や内臓の調子が悪いと口の中に現れます。例えば、胃腸が弱ると、口内炎が出来たり、口の周りが切れたりします。

口は内臓の1部で、内臓系の筋肉に直接働きかけられる場所は、腸の先端である口なのです。

食生活と咀嚼力

咀嚼力低下は文明病?

現代人は、弥生時代人々と比べ、6分の1程度しか噛んでいないと言われています。

現代では、食材や調理法が進化し、軟らかいものばかり食べるようになりました。

歯周病の治療や予防の先駆者である片山恒夫先生は、未開地の人たちの歯並びは大変きれいだが、文明に接しはじめると、どんどん歯並びが悪くなりむし歯も増える、と書いています。

軟食化が進み、昔よりも噛まなくなったことによって、現代人は、顎が小ぶりになり、エラの張りも小さくなってきています。また、顔の形も変わってきました。足腰の筋力の低下が老化につながるように、噛む力が衰えることも、老化につながります。

自然界の動物なら、きちんとものを噛めなくなった場合には、死につながってしまいます。しかし、人の場合は、調理することで食べやすくできます。つまり、調理器具が咀嚼運動の大部分を担ってくれているのです。そのことから、あまり噛まなくても、食べ、生きていけるようになったのですが、弊害もあるということです。

良く噛むことは全身に良い?

噛むことで、口腔内の筋肉や皮膚が刺激され、唾液が分泌され、含有される消化酵素アミラーゼが、消化を助けます。

また、咀嚼運動による刺激は脳に伝わり、胃にこれから食べ物を送るという信号を伝達します。胃はそれを受けて胃酸を分泌します。

そして、咀嚼回数が多くなると脳の視床下部への刺激が増えて、ノルアドレナリンの分泌量が増加します。これにより燃焼が促され、代謝が高まり、太りにくくなります。

鼻呼吸が大切?

唾液の出る口にするためには、口呼吸はやめ、なるべく鼻呼吸にすることが大切です。口呼吸をしていると、口の中が乾燥しやすく、唾液の量が減ります。このことは口腔内に細菌が増えることにつながります。

口を閉じていれば、唾液が満ち、咀嚼にも良く、細菌が繁殖しにくいため、身体の抵抗力にもプラスです。口呼吸を鼻呼吸に変えると、風邪を引きにくくなります。

また、常にだらだら食べ続けていると、歯は酸性に傾き、脱灰が進み、溶けやすくなります。

間食は極力控え、特に寝る前に食べることはは要注意です。睡眠中は唾液の分泌が少なくなりますので、虫歯は夜に作られやすいのです。

腹圧が大切?

内臓をうまく働かせるためには、腹圧の調整が大切です。内臓を前から押さえている腹直筋の力が弱いと、腹圧が前にかかりお腹が出っ張ります。横になってお腹をへこませた時に、肋骨がわかるくらいへこむかどうか。へこまない人は要注意です。

横隔膜は、ちょうど胸とお腹を隔てているように位置しているので、太ってお腹の周りに脂肪がつくと、直接圧迫されてしまいます。横隔膜をフルに使ってゆったりとした呼吸が出来れば、内臓系全体に良い刺激を与え、活性化出来るということです。